【第1話】無人島で生活することにした【あつまれ どうぶつの森】
リストラに遭ったんだ。
元々、安定した企業では無かったのだけれど、どうやら経営陣がモメにモメたらしく、僕が携わっている事業はキッパリ辞めることにしたらしい。僕らに支払う給与も無くなってしまう、と言うことで、僕らは会社都合での退職を余儀なくされた。
仕事は楽しかったんだけどね。これが社会ってやつらしい。
また別会社に転職しようとも思ったのだけれど、どうにも気が向かず、以前メルマガで届いていた「無人島移住パッケージプラン」というものに応募してみた。「たぬき開発」という何とも胡散臭い会社が運営を行っているらしい。
ストレス社会に揉まれる友人たちなんかは、みんな口をそろえて「誰もいないところで静かに暮らしたい」なんて言うんだ。それを今回、僕が実現してやろうと、半ば勢いで応募してみたんだ。
善は急げ。僕は支度を終えると、すぐに空港へ向かった。
たぬきが2匹、出迎えてくれた。まめきちさんと、つぶきちさんらしい。どっちがどっちかは分からない。
「無人島移住パッケージプランに応募した、みゃあです。」と言うと、彼らはすぐに手続きを進めてくれた。名前の登録、写真撮影などを済ませた。
話によると、どうやらこの無人島移住パッケージプランは、北半球の島と南半球の島のどちらかを選択できるらしい。日本と似た気候は北半球の島らしいが、僕は思い切って南半球の島にすることにした。
「では、こちらの地図から、移住先の島を選んでください」と言われ、いくつかの写真を提示された。
わからん。
とりあえず直感で、左下の島にすることにした。
諸々の手続きが終わった。案外早かった。ちょうど飛行機も到着したらしい。
うーん。食料かな。
なんで聞いたんだ。
飛行機内では、無人島に着くまでの間、この無人島移住パッケージプランのイメージ映像が繰り返し放映されていた。
良い!なんて楽しそうなんだ!
全然「無人」島ではないけれど、現地には、このプランに応募した人たちが既に住んでいるのだろうか。
期待に胸を膨らませて飛行機の到着を待った。
無人島に着いた。
機内窓から見えてはいたが、とても自然豊かで、過ごしやすそうな島だ。
僕の他にも、2名(うさぎとトリ)がこの無人島を選択したらしい。
この島は、現在は誰も住んでいないらしい。
たぬき開発の社長が既に到着しているらしく、みんなで挨拶をしに行くことになった。
語尾に「だなも」を付けるのが特徴的な、たぬきち社長。
簡単な自己紹介のあと、テントを渡され、自分の好きな場所を選んで、テントを張ってきてほしいと言われた。
迷ったが、島の東側、海風が気持ち良いこの場所を選択した。
テントを張った経験が無かったため、少し苦労した。
先ほどの2名が、どの場所にテントを張るのかが気になったため、少し散歩をして、社長のところへ戻ることにした。
ミラコは、ここにテントを張ることにしたらしい。
いや近いよ、セバスチャン。僕のテント見えとるがな。
違う場所を勧めた。
社長のところへ戻ると、今夜はキャンプファイヤーをするとのことで、木の枝とさくらんぼの調達を依頼された。
幸い、それらは近くの木をゆすることで、すぐに手に入った。
褒めて伸ばすタイプだ。非常に好感が持てる。
諸々の準備をしている内に、あっという間に日が暮れ、キャンプファイヤーの時間になった。
キャンプファイヤーなんて初めてだった。
学生時代、友人たちと河原で花火をした日のことを思い出した。
二度と帰ってこないと思っていた青春。それがまだ、この無人島には残っている気がした。
キャンプファイヤーの火を見つめながら、きっとこの無人島移住パッケージプランに応募したのは正解だったんだと、既にどこかで確信している感覚があった。
しばらくすると、社長からあることを提案された。
それは「島の名前を決めてほしい」ということ。
僕とミラコとセバスチャンの3人で案を出し合うことなった。
「ランゲルハンス島」を提案することにした。
ランゲルハンス島とは、膵臓の内部にある、糖尿病を防ぐホルモンを分泌してくれる、とても大切な島状の細胞のことだ。
以前、パティシエの彼女が、調理理論でランゲルハンス島という細胞のことを学習した、とドヤ顔で言っていたことを思い出して、この名前を提案することに決めた。
即決だった。本当にいいのか。
ついでに島民代表にされた。
しかし、自分の思い通りに島を開拓できる、というポジションも悪くない。
快く引き受けることにした。
その日は、社長特製のさくらんぼジュースで乾杯して、解散となった。
テントに戻り、今日一日を振り返った。
日本を飛び出して、はるか遠い南半球の島へ。
みんなで材料を集めて、キャンプファイヤーをして、島の名前を決めて。
既に楽しい生活が始まっている。
高揚感がなかなか冷めず、もう少し散歩をしてから寝ようかと思ったけれど、身体も疲れていたので、今日はもう休むことにした。
狭いテントでの、慣れないベッドだったけれど、不思議とよく眠れる気がした。
眠気に身を任せるのが気持ちよかった。
意識が薄れていく。
翌日、社長からとんでもない発表があることも知らずに、僕の意識は薄れていく。